きみのなかの遠方







  誰にもきみは似ていない
  なのに直ぐに
  誰々に似てる
  、てぼくはいう
  本当に直ぐに
  口に出してしまっている

  さわりたいと願い
   さわる

  横に立ちたいと感じ
   横に立つ

  声に出したいと
   じつはあまり
   思っていないのかもしれないのに
   声に出す

   ナッちゃんに似てるね
   太陽みたいだ

   いくども いくども出していく

  胸のなかはかわらない
  声が外の空気をふるわせはする
  きみの鼓膜をふるわせはする
  言葉としての意味をおくってはいる

  ほんとうの意味がてさぐられていく
  胸のなかをてさぐっていく
  鼓膜のふるえをなぞっていく

  こっちの目をのぞいてくる
  そっちの髪に手をのばす

  耳を閉じる
  口を閉ざす

  口で口を閉ざしする
  言葉が出ないよう
  代わりに熱がつたわって
  ぼくはなにかの返事をうけとれた気がする

  胸のなかのなにかを渡せたのかもしれない
  、て思いたいと考える

  手を手に添え
  どちらがどちらを連れてでもなく
  引っぱられ引っぱり
  動かし動かされ
  少しだけ言葉の数がへる

  時どき洪水であふれかえり

  のち雲間の日がのぞきひろがり

  誰にも似ていないきみを
  ひきよせ
  動かされ
  望んでいく

  きみのなかの遠方を

  途端
  手に力を込めたくなり
   そうする
  と横にいるのが確かめられ

   遠方とは近くにあるものだ
   としたら

  またやっぱり声に出したくなる

  それでいんだ
  、て
  きみのなかの遠方に
  声を張り上げてしまいたくなる