右手がスラスララと言葉を書いていこうとすると
それを左手がねぇちょっと、て引き留める
なにさ?
と右手。
あのね、
と左手。
言葉がはやすぎてぼくなに書いてるのかわかんないんだけど
左手はとつとつといいながら、
右手の右手をしっかりとつかまえて離さない
ぼくさ、それちがう、て思うんだ
右手は引き留められながら手首をかしげる
なにいってるっていうのさ
なに書いてるのかわかんないのにどうしてちがうってわかるってゆうの?
右手は本気でおこってる
左手はそれを必死にきいてそれでもまだ引き留める
だからねぼくそれがわかんないからほんとにわるいんだけどでも
思うんだ、ちがう、そうじゃないんだきっと、て。
右手は引き留められているうちに書こうとしていたなにかを失ってしまう
勢いがそがれ、イマジネーションやらインスピレーションやらが風にとんでってしまった
ああ
と右手。
ほっ
と左手。
おこって左手をふりはらおうとする右手に
左手はいう
もういちど。
と
そこで右手は気をとりなおしゆっくりゆっくりと書こうとする
言葉は深い沈黙にしずんでなかなかなかなかうかんでこない
ほらやっぱり!
しーっ
左手は右手にひとさしゆびをあてる
おねがいだからもうすこしまってみて
もういちど右手はこんどはさっきより長いあいだまつ
左手はそんな右手のようすをとなりにいてみまもっている
右手がぴくん、てかすかにうごく
左手はじっとみまもってるだけ
やがてそれよりはるかに長いあいだがたって
やがて右手がうごきはじめる
やがて右手がうごきはじめて
それよりかもっと長いあいだがたって
ひとつの言葉があらわれてくる
まだそこにあらわれてくるのはひとつの言葉だけ
でもやがてそこから
なにかなにがしかが言葉や言葉のつらつらやらなんやらが
ゆっくりゆっくりとあらわれてくるはず
右手はうごいてるのだかいないのだか
ゆっくりゆっくりとうごいてるだかとまってるだか
左手はみまもってるだかぼぅっとしてるだかなんだか
ただなんだかじっとしてるだけだか