名残り







  会ったばかりのころから
  名前は
  おなじ響きのはずが
  いつのまにか呼ぶときの
  イントネーションが違っていたり
  呼ぶときに込める気持ちが
  おなじ響きにしても
  違っていたり
  しているかも知れない

  ずっとおなじ文字で
  変わらずにいる名前を見て
  声には出さず読み
  喉のなかで呼ぶ

  いつのまにか変わっているかも知れない
  イントネーションや気持ちに
  気を付けて名前を
  相手がいないところで
  自分の喉のなかだけで
  呼んでみる

  うまくできたかわからない
  そうしたくなって
  呼んでみたが呼んだときやっぱり
  変わってきているかも知れない
  イントネーションも気持ちももう
  入り込んでしまって
  いるような気がして

  微かにしか憶えていない
  さいしょのころどんな風に呼んでいたかを
  どんな気持ちが名前を

  しばらくだけその文字を見ていて
  そして目を上げたとき
  今のこの心の持ちようを
  こうさせてくれたものの感触を
  忘れていつつ
  おぼろに名残りを感じつつ